皆さん、こんにちはTomi(@tmkprch)です。
革靴を履いていると必ずかかとが削れてきますよね。修理屋さんに出すのも勿論良いのですが、自分でやってみるのもお勧めです。
かかとの交換は靴作りの工程のひとつでもあります。ぜひ皆さんも靴作りの体験として「自分で修理!」をトライしてみませんか?
この記事では、削れてしまった革靴のかかとの修理を、
- 削れてしまったゴム部分だけを交換する「コーナー修理」
- 「トップリフト」と呼ばれる地面に接しているパーツ毎交換する「トップリフト交換」
の2つのやり方をご紹介します。
条件が合うならば、より簡単な「コーナー修理」をお勧めします。
目次
事前準備
まずは、自分の靴の削れた状態をよく確認しましょう。今回の私の靴の場合はこんな状態でした。
かかとの外側が削れていますが、画像中の赤いラインまでは削れていません。この赤いラインが「トップリフト」というパーツと「積上げ」というパーツの境目になります。
上の画像は外したトップリフトのみのものです。ゴムが削れてもうすぐ無くなりそうになっていますがいますが、まだトップリフトの革は残っています。これがさっきの「赤いライン」でした。このトップリフトの革の部分も削れてしまって、その上の積上げまで削れてしまうとそこから手当をしないといけません。こうなってしまったら、残念ですが修理屋さんに持ち込みましょう。今回のこの靴は積上げはセーフですので、自分で修理をしていきましょう。
さて、トップリフトには色々な種類があります。皆さんが修理しようとしている靴のトップリフトはどのようなものでしょうか?マモルさんで購入できるものを例に見てみましょう。
①三日月型
ゴム部分だけ切り取り易い形をしていますので「コーナー修理」をお勧めします。もちろん「トップリフト交換」しても結構です。
②クサビ型
この形は切り取り難いので「トップリフト交換」をお勧めします。
③山型
同じく「トップリフト交換」をお勧めします。
④全面ゴム型
同じく「トップリフト交換」をお勧めします。
さて、今回の私の靴を見てみましょう。
真下から見るとこうです。三日月型ですので「コーナー修理」が出来ます。しかし、「コーナー修理」を行うにはもうひとつ条件があります。ゴム部分の厚みが6ミリ程度であることです。一般に、購入できるリフト板の厚みが6ミリであることが多いからです。厚みが合わないとゴム部分と革部分で段差が出来てしまいますから、その場合は「トップリフト交換」で対処しましょう。
「トップリフト交換」の場合でも、新旧リフトの厚みを測っておく必要はあります。靴のヒールの高さは木型の段階で決まっていますので、修理の際にむやみにこの高さを変えてしまうと、削れた部分は直っても歩き難い靴になってしまいます。
まず、既存のトップリフトの厚みを測りましょう。
約5.5ミリほどに見えますが6ミリと見ておきましょう。多くのトップリフトの厚みは6ミリ〜8ミリ位だと思います。念のために後ほど外した後でも再度計測しましょう。
付け替える方のトップリフトの厚みも計ります。5ミリですね。ちょっと薄いものでした。先程ヒールの高さをむやみに変えると歩き難くなると書きましたが、私がよく参考にさせて貰っている靴修理屋さんによると、その分かれ目は2ミリだそうです。つまり、差が2ミリ以内ならばまだ違和感は出ないのですが、2ミリを超えると途端に違和感を感じるんだそうです。
ここでは1ミリの差ですので、このまま作業を進めていくことにします。
事前準備は以上です。
必要な道具
では、まず修理に必要な道具達をご紹介します。
靴作り全体も通して体系的にこちらの記事で紹介していますのでご覧下さい。
参照記事中の「トップリフト交換」の部分が今回の必要な道具に該当します。いきなり本格的な道具は高いし買えない、という方向けにジェネリック道具もご紹介しています。
釘抜き(ヒールはがし)
ジェネリックとしてはニッパー、マイナスドライバー、ラジオペンチ、あたりです。
本職向けは左画像のような特大の釘抜き(通称:えんま)を使います。特にヒールだけではなくて、ソールもはがすような時はとても便利です。なければ右のようなラジオペンチで何とか頑張りましょう。
ヤスリ
棒ヤスリ(平ヤスリ木工用と鉄工用)と、紙ヤスリ(#200〜#600位)の両方。
接着剤
皆さんお馴染みのボンドG17でも大丈夫です。
インク
コバ用インクまたは油性マジックでもOK。
・[ブートブラック] EDGE COLOR BBエッジカラー
・アーテック マッキー(油性) 12色セット 91621 太
包丁
中型サイズのカッターでいいですが、替刃として、通常よりも鋭角に刃がついている「黒刃」の新品を惜しみなく使って下さい。
必要な材料
リフト板(★コーナー修理★)
かかとのゴム部分がこのような板状の「リフト板」として売っていますのでこれを使います。東急ハンズ新宿店のような品揃えの充実した靴用品店か、マモルさんでネット購入が可能です。
真鍮釘(★コーナー修理★)
コーナー部分を留めるのに釘を打ちます。動画では真鍮釘を使っていますが、ゴム部分には鉄釘の方が良いという話しもありますので細い鉄釘でも良いと思います。(真鍮の方が雰囲気が出るので私はこちらを使います)
トップリフト(★トップリフト交換★)
「トップリフト交換」の場合はこの材料が必要です。これはさすがに靴材料問屋さんでないと売っていないようです。マモルさんで買えますよ。
自分で出来る修理のやり方
さて、いよいよ修理に入りますが、まずトップリフト交換の場合の大まかな流れをご紹介しておきます。
「コーナー修理」のやり方
- 既存のトップリフトの半月型のゴム部分のみを剥がしてヤスリで整える
- 新しいリフト板に剥がしたゴム部分で型取って切り出す
- 接着剤を積上げ部分とゴムの両方に塗って乾かす
- 貼り付けて、はみ出た部分をカッターで切り取る
- ヤスリで表面を綺麗に整えて仕上げる
では、ここから先は動画でどうぞ!!
※「コーナー修理」は事前準備でご紹介した靴とは別のものでやっています
「トップリフト交換」のやり方
こちらもまず大まかな流れをご紹介します。
- 既存のトップリフトをはがす、積上げの底を平らにヤスる
- 接着面を荒らす、接着剤を塗る、接着する
- はみ出た部分を切り取る
- ヤスリで表面を綺麗に整えて仕上げる
こちらは動画ではなく、テキストでのご紹介でございます。
①トップリフトをはがす
では作業を進めていきましょう。まずは既存のトップリフトをはがしていきます。
釘抜きを使うと、こうメリメリッと意外と簡単にはがすことができます。
釘抜きがない場合は、まず画像の部分にマイナスドライバーをグリグリと差し込んで隙間をひろげていきます。この時積上げに傷がつかないよう注意しましょう。
その後ラジオペンチを使ってはがしていきます。
はい、はがれました。はがしてみるとよく分かるのですが、画像の靴の積上げは実は革ではなくて「くず革」を固めた素材(ナンポウといいます)で出来ています。革靴の積上げは、伝統的には1枚1枚革を積上げて「積上げ」を作っていくのですが、大量生産靴にはこのようなくず革を固めた素材で3段分最初から成形されているものが使われていることが多く見受けられます。
真ん中には軽量化目的でしょうか、穴もあいています。
このナンポウの場合、劣化が革よりも早い場合が多く、劣化し出すとボロボロと崩れてきますので、なかなかにやっかいものです。今回は特に崩れていませんが、劣化が酷いと外すときに大きく崩れてしまう場合がありますので、はがす際は慎重に行いましょう。
さて、外したトップリフトの厚みを改めて計測してみますと7ミリありました。新しいトップリフトが5ミリですから、ギリギリ2ミリの誤差ということでこのまま付けても良いのですが、手元に1ミリ厚の床革がありますので、これを貼った上にトップリフトを貼っていこうと思います。
②トップリフトの接着
まず、床革を用意して大まかに形を写し取ります。床革は今回のような使い道以外にもあると色々便利ですからぜひ常備しておくことをお勧めします。
床革を切り出したら、かかとのカーブの曲線を写し取ってカットしておきましょう。接着した後にやろうとするととても作業し難いので先にやっておきます。
次に、積上げの底を平らに削ります。ナンポウ素材は革に比べて削れやすいので、手が滑ってしまうと一気にへんな風に削れてしまいがちですから注意深く削りましょう。
後ろからも見て、平らに削れているかどうか確認しましょう。
次にボンドを塗布して接着していきます。ここでは手に入りやすいボンドG17を使います。
少し大きなサイズのG17を買うと画像にある平らな塗布口のパーツが付いてきますが、これがあると大きな面積にボンドを塗布するのがとても便利ですからお勧め致します。
ボンドがこぼれてますけど(笑)、こんな風に広く塗りやすいですよ。積上げの底面と貼り付ける床革の両方に塗布し終わったらよく乾かします。
「よく乾かす」というのは色々な流儀があるようですが、接着剤の表面が乾いて指で触ってもベトつかない状態、というのが定性的な状態です。定量的には20分程度から半日以上乾かした方が良いと言う人もいます。なお、革はボンドを吸い込みます。場合によっては2度塗り3度塗りしましょう。
さて、乾いたら接着するのですが、その前に、ドライヤーの熱風(画像はミニヒートガン)で接着剤に熱を与えて活性化させます。積上げ側、床革側両方に熱をよーくあてましょう。これをやるのとやらないのとでは大きな違いが出ますので重要作業です。
暖まったら、貼り付けてよく圧着します。画像のようにハンマーで叩くのがやりやすいでしょう。
このような台金があると圧着作業や釘打ち作業がとてもやりやすくて便利ですが、ない場合はスチール空き缶(中身は空にしておきましょう)の上に履き口を下にして靴をかぶせて簡易的な台金にする方法もあります。あるいは、しっかりとしたシューツリーを入れてそれを台にしてハンマーを打ち付けても出来ると思います。
接着出来たら、はみ出た部分をカッターで切り取っておきます。
こんな感じですね。この上にトップリフトを貼り付けて行きましょう。
まず、積上げの底、先程床革を貼ったので床革ですが、これをよく荒らしておきます。接着性を高めるためですね。
上の画像の左が荒らしたもの、右が何もしていないものです。接着面を荒らしておくと、接着剤がその荒れた隙間に入り込んで接着力が増します。この作業をしておくのとしないのとでは接着力に大きな違いが出ますのでこれも重要な作業です。
同様に、トップリフト側もゴムの部分も含めてよく荒らしておきましょう。
先程の床革の時と同じく、かかとのカーブ曲線をトップリフトに写して先に切り取っておきます。
こうやって印もつけておくと、貼り付ける際の参考になって便利だと思います。
先程と同じくボンドG17を塗布して乾かします。画像は2度塗り状態です。乾いたら先程の位置合わせの印を参考にしてずれないように気を付けながら貼り付けます。
あ、右足と左足を間違えないように貼って下さいね。ゴムがかかとの外側にくるように貼ります。ハンマーなどでよく圧着しましょう。
台金がある場合はこのように靴をかぶせてハンマーでよく叩いて圧着します。
一部、接着剤の塗布が甘くて浮いていましたので、接着剤をハケで塗り足して浮いたところをよく付け直しました。
なお、はみ出たボンドG17はこのようなゴムのりの固まりを使ってこすり取ると綺麗になります。
③仕上げの工程
さあ、トップリフトが接着出来ましたら、次は仕上げに入っていきます。これまでの工程は履き心地を左右しますが、見た目を左右するのはこの仕上げ工程になります。慣れないうちはなかなか上手く行かないかもしれませんが、大丈夫です。やってるうちに必ず上達してきますし、何より、トップリフトの仕上がりは普段は地面に接するところなのでほとんど他人からは見えませんから(笑)。
仕上げ工程の中で、一番上手くいかないのがこの作業だと思います。私もいまだに上手く行くことはほとんどありません。ですが、この後の作業である程度挽回出来ますので、恐れずに思い切ってやって下さい。
まず、怪我を防止するために防刃手袋またはそれに類するものをはめることを強くお勧めします。私は以前大けがしてから手袋をはめるようにしています。
そして、中型サイズのカッターですが、刃は切れ味の良い黒刃の新品を装着しましょう。下の画像のようにかかとのコバ面に刃を沿わせながらはみ出た部分を切り落としていきます。
革の部分は比較的順調に切れると思いますが、問題はゴムの部分です。そのままカッターの刃だけで切ろうとするとゴムはさすがに硬くなかなか刃がすすみません。
そこで、上の画像のように左手で切れ端をつまんで持ち上げてあげながら切っていくと、これが不思議な位刃がスーッと入って簡単に切れます。
この時に注意して頂きたいのは、カッターの刃の角度です。
上の画像は写真をとるために右手を離しているのでカッターが斜めになってしまっていますが、仮にあのような角度で切ってしまうと切り終わった後のゴムがかかとよりも小さくなってしまうため見た目が悪くなってしまいます。
基本は、かかとのコバ面にぴったり刃を沿わせるか、少し持ち上げる位が丁度良いかもしれません。大きい分には微調整は利きますので切り終わった時にコバよりもゴムが少し大きいくらいが良いでしょう。
ざっと切り終わった状態です。数カ所、カッターの刃が傾いてしまいゴムが切れ過ぎてしまった箇所があります。
上の画像の黄色い丸の箇所がえぐれてしまっているのが分かると思います。カッターの刃が食い込み過ぎてしまうとこうなってしまいます。でも大丈夫です。プロの仕上がりのようにはいきませんが、この後の仕上げ工程で目立たなくすることは出来ます。
上の画像の黄色い丸の箇所がえぐれてしまっているのが分かると思います。カッターの刃が食い込み過ぎてしまうとこうなってしまいます。でも大丈夫です。プロの仕上がりのようにはいきませんが、この後の仕上げ工程で目立たなくすることは出来ます。
両足とも切り取りが終わりました。一部ガタガタして見えますので、これらをヤスリで全体のバランスを整えて目立たなくして行きましょう。
さて、ここからヤスリで仕上げていきますが、手が滑っても靴本体の革に傷がつかないようにマスキングテープを貼って保護しておきましょう。革に直接貼るマスキングテープは塗装用の紫色のもの(一番粘着力が弱い)をお勧めします。これをさらに粘着力を弱めるために、一度洋服などに貼り付けます。
こんな風に何かに一度貼り付けてからはがすと粘着力が弱くなりますのでそれを靴にはります。
私は、紫のマスキングテープを2枚貼った上に黄色いマスキングテープを貼りました。これで多少ヤスリがはみ出ても安心です。そうしましたら、#200位の紙ヤスリから削っていきましょう。かかと全体が凸凹しないように、出っ張っている部分を意識して平らにならしていきます。
ゴムの部分は鉄工用ヤスリでやっても良いかと思います。とにかく、手でヤスる以上、プロがグラインダーを使ってやるようなツルピカの仕上がりには残念ながら、なり得ません。綺麗にならないなぁ、と思うかもしれませんが、あきらめずにとにかく凸凹がなくなるように地道にヤスっていきましょう。
ヤスリ続けて15分程、こんな感じになりました。どうでしょうか、だいぶ凸凹が目立たなくなっていませんか?
この位まで来たら、革の部分を水を使って締めていきましょう。今回の私の靴は積上げ部分はナンポウですのでこの作業は不要ですが、新しく付けたトップリフトの一部と床革部分が革ですから、ここを水で濡らしてハンマーで(持っている人は踵ゴテで)ぎゅっと強く押しつけて革自体を強く締めていきます。
まずブラシ(古い歯ブラシでもOK)で革の部分を水で濡らしていきます。
そうしたら、濡らした所を上の画像のように、ハンマーでギューッと押しつけて革の繊維を固めていきます。一通り革の部分を押し固めたらOKです。先程までの革の表情が少し木のように堅さを持った表情に変わっていませんか?
このような状態になりました。次はいよいよ、色をつけていきます。
⑤染色とワックス
染色は道具の所でご紹介したコバインキをお勧めします。垂れないように気をつけながらかかと全体に塗っていきます。マスキングテープがありますから多少はみ出ても安心です。
まれに、中底と底革の間にゴム素材のミッドソールをつかっている場合などインクが乗らない場合もあります。また、何かが付着しているのか、インクの乗りが悪いナンポウも見受けられることもありますが、そのような場合はマジックインキで塗ってしまうのもお勧めです。(twitterの靴界で有名な@Zin_Ryuさんがご紹介してくれたテクニックです)
一度塗りでこのような感じです。特にナンポウ部分にツヤが出ていません。乾いたらもう一度コバインクを塗って、その後で靴用のワックスを塗ってツヤを出していきます。
使うのはこのような普通の靴用ワックスです。これをかかと部分に塗り込んで少し乾かした後布で磨いていきます。
どうでしょうか。ワックスでツヤが出てきてますね!修理前はかかとに細かい傷もついていてひどい状態でしたが、ヤスリで凸凹を整えた結果、ずいぶんと傷が消えています。では、完成後の写真を何ショットかご紹介します。
後日、ハーフラバーとつま先ゴムも貼り終えて、茶色のコールハーンの修理完了です。
さあ、如何でしたでしょうか。今まで当たり前のようにお店に修理に出していた方もぜひ次の機会にはご自分で修理にトライするのも楽しいと思いますよ!
皆さんのシューライフがもっと楽しくなりますように!
ご紹介している、道具もよければ参考にしてみてください!
釘抜き(ヒールはがし)
ジェネリックとしてはニッパー、マイナスドライバー、ラジオペンチ、あたりです。
ヤスリ
棒ヤスリ(平ヤスリ木工用と鉄工用)と、紙ヤスリ(#200〜#600位)の両方。
接着剤
皆さんお馴染みのボンドG17でも大丈夫です。
インク
コバ用インクまたは油性マジックでもOK。
・[ブートブラック] EDGE COLOR BBエッジカラー
・アーテック マッキー(油性) 12色セット 91621 太
包丁
中型サイズのカッターでいいですが、替刃として、通常よりも鋭角に刃がついている「黒刃」の新品を惜しみなく使って下さい。