靴作り/レザークラフトのための革包丁の研ぎ方(入門編)

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皆さんこんにちは、Tomi(@tmkprch)です。

 

靴作りでは色々な道具を使いますが、中でも最も使う道具のひとつが革包丁ではないでしょうか。靴作りに限らず、レザークラフト全般でも広く使いますよね。最も良く使うが故に、その切れ味には人一倍気を配りたいところです。
上手に、正確に、早く作るためには鋭い切れ味を持った包丁を使うのが重要ですものね。でも怪我をしないように気を付けて使って下さい。私は以前手首の動脈の近くをズバッと切ってかなり焦りました(汗)。

 

この記事では、入門編としての革包丁の研ぎ方をご紹介致します。皆さんもぜひ試してみて下さい。

初めての「研ぎ」に必要な道具と準備

研ぎに必要な道具の入門編としてまずは必要最小限のものをご紹介します。仕上げ編など追々ご紹介しますので興味のある方は後日買い足して頂ければと思います。

 

おすすめの砥石など

 

面直し砥石(砥石の表面を平らに修正する砥石)

ナニワ 面直し用砥石(溝入) QA-0160

 

意外かもしれませんが、研ぎ道具の筆頭として挙げたいのがこの面直し砥石です。砥石を買う際に忘れずにこれを一緒に購入されることを強くお勧めいたします。研ぎで一番重要なのは「平らな砥石で研ぐこと」と言っても過言ではありません。ひょっとすると砥石類の中で一番よく使うかもしれません。普通の砥石は持っているけれど、これは持っていないという方!ぜひ買って使ってみて下さい。

 

ダイヤモンド砥石(荒砥#400位と中砥#1000位の両面のもの)

trad 両面ダイヤモンド砥石 チタンコーティング #400・#1000 SR-DW410T 350371

 

次がこのダイヤモンド砥石です。革包丁は「片刃」といって裏が平らで表側だけに刃がついています。研ぐというと、表の刃に注目しがちですが、実は切れ味を左右する大事なポイントは裏を真っ平にすることになります。これを「裏押し」と言います。
伝統的には金盤と金剛砂を使って平らに磨き上げるのですが、これには慣れが必要ですので、入門編としてはこのダイヤモンド砥石を使ったやり方をご紹介します。#400〜#600程度の片面のものでも良いですが、荒と中の両面ついているものがあると何かと便利です。

 

ちなみに、「#400」のような数字は砥石の粒子の大きさを表していて、例えばシャプトン製人造砥石「刃の黒幕」シリーズでは大雑把にいってこんな感じになっています。

#120〜#320 :荒砥(あらと)刃が欠けた、など大きく研ぎ直す時に
#1000〜#2000 :中砥(なかと)普段の研ぎに
#5000〜#30000 :仕上砥(しあげと)切れ味を高める時に

 

中砥(#1000〜#2000くらい)

セラミック砥石 刃の黒幕 ブルー #1500 シャプトン

 

いよいよ普通の砥石です。この入門編では、#2000より大きな砥石は使いません。

 

ここでは、#1000〜#2000の砥石を中砥と呼ぶことに致します。まだ中砥を持っていない方には私はぜひこのシャプトン製「刃の黒幕」シリーズをお勧めいたします。もちろん既にお持ちの方はいまお使いのもので構いません。「刃の黒幕」シリーズは、人造砥石の中では比較的硬い部類で、他の人造砥石は研ぐ前に20分ほど水に漬けておく必要がありますが、これは水に漬ける必要はなくすぐに使い始められます。

 

また、保管ケースがそのまま研ぎ台になるのも秀逸です。画像は#1500のものですが、他の砥石で#1200位のものをお持ちの方は#2000の刃の黒幕を購入されても良いかもしれません。

 

研ぎ台

 

これはあったら便利なものなのですが、砥石をしっかり固定して研ぐために研ぎ台があると便利です。先にご紹介した刃の黒幕であれば、保管ケースがゴムのストッパー付きの研ぎ台になりますので無くても大丈夫です。
画像のものは私の家のキッチンシンクにぴったりはまるように自分で作ったものです。ホームセンターの木材売り場の端材コーナーの材料を組み合わせれば300円程度で作成出来ます。作り方も簡単で、砥石より大きな幅の板と固定したい長さで固定する小さい木材、ネジだけです。

 

 

 

こんな感じですね。

ここまで作らずとも、ゴムシートを買ってきて下に敷くだけでも随分違います。いずれにせよ、何らかの方法で砥石をしっかりと固定することが重要です。

 

指サック

コクヨ 紙めくり 指サック 中 オレンジ 18mm 12本 メク-2B

 

次にご紹介するのがこの指サックです。研ぎは好きなんですけど長らく困っていたことがあって、包丁を研ぎ終わった後に研ぎ汁で手が真っ黒に染まるんです。これ石鹸で洗ってもなかなか取れないんですよね。
ところが、ある時デパートの展示場で職人さんが指サックを付けて研いでいるのを見て脳天を殴られた位の衝撃を受けました(笑)。

 

早速購入して付けてみると、これが実に具合がいいんです!

 

適度に薄くて感触を損なわないし、手も汚れません。強いて言えば、研ぐ時に包丁の刃が当たらないように気をつけて下さい。指サックは色々な種類があるようですが、画像のような事務用のもので大丈夫です。

 

ピカール(金属磨)

ピカール液 液状金属みがき 180g

 

この入門編では仕上砥は使いませんので、代わりに簡易的な仕上げとしてこのピカールを使ったやり方をご紹介します。

 

こんな容器に液が入っていましてそれを布に取って金属を磨くとピカピカになるというものです。年末の大掃除の際にも金属部分をピカピカにするのに活躍してくれます。ただ、難点はかなり匂いがキツいということでしょうか。換気良くしてお使い下さい。

 

事前準備

さあ、道具が揃ったら研ぐための準備をしましょう。と言っても何も大袈裟な準備がある訳ではありません。

 

水場(キッチンのシンクが一番手頃です)に包丁と研ぎ道具一式を置いて、タライや洗面器などで中砥を水に漬けましょう。人造砥石は水に漬けると細かい泡が出てくると思いますが、この泡が出なくなるまで20分ほどしっかりと水に漬けましょう。(画像はキング砥石の#1200です。細かい泡が出ているのがお分かりになりますでしょうか)

 

 

刃の黒幕の場合は天然砥石と一緒で、水に漬けても泡は出ません。水に漬ける必要はなく水を掛ければすぐに使えます。なお、面直し砥石とダイヤモンド砥石も水に漬ける必要はありません。

 

(吸水が必要な)中砥を水に漬けたら、その間にダイヤモンド砥石を使って裏側を平らに研ぐことから始めましょう。以後、私の手持ちの革包丁での研ぎを題材にご紹介します。

 

裏押しと荒研ぎ

さて、ダイヤモンド砥石のご紹介の所で述べたように革包丁の切れ味を良くするためには包丁の裏革を平らにする「裏押し」という作業が重要です。

 

この入門編では簡単な裏押しのやり方として、ダイヤモンド砥石を使ったやり方をご紹介します。普通の砥石は常に面直し砥石で平らに修正しながら使いますが、ダイヤモンド砥石はその特性上ほぼ砥石表面は平らを保ってくれますので、それを利用して平らに研ごうということです。

 

簡単な裏押しのやり方

まず研ぎ始める前の状態です。

 

 

使っているうちに切れなくなってきたので中砥#1200で研いだ状態でした。表も裏も鈍く光っている状態です。

 

では、研ぎ台にダイヤモンド砥石をセットして、#400の荒砥面を上側にします。

 

 

少し水をかけて濡らしましょう。そうしたら画像のように、包丁の裏側、刃先から1.5センチから2センチ程の幅で横から砥石に当てます。

 

 

この時、包丁裏面が均等に平らに砥石表面に当たるように意識します。おもむろに、ゆっくりと上下に動かします。動かしている時も均等に平らに当たったまま動かすことを常に意識して下さい。

 

ダイヤモンド砥石は思った以上に早く削れますので、急いで力を込めて動かす必要はありません。ゆっくりで構いませんので、スライドは大きく、強い力で押しつけないで平らに押し当てる力だけ意識して20回程研ぎましょう。研ぎ終わった後の画像がこれです。先程よりもかなり荒く傷が付いているのが分かるかと思います。。

 

 

革包丁の裏側は通常真ん中が少し凹んでいますので、刃先と両側が平らに削れて真ん中は削れないままになっているのが正常です。

 

荒研ぎのやり方とコツ

では続いて、表側の刃の荒研ぎに移ります。ダイヤモンド砥石は#400のままで結構です。まずは包丁をひっくり返して表面が砥石に当たるように置きます。砥石は少し水で濡れている状態にして下さい。

 

ここで、包丁の柄を持って少しずつ上にあげていき、砥石と包丁の刃の角度が合うところを探します。画像では見難いですが、刃の角度が砥石表面にピッタリ合うと刃先から水がにじんで出てきますのでよく刃先を見ていて下さい。その刃先から水がにじむ時の角度で包丁を研いでいきます。

 

 

角度が狂わないように、刃先面全体を均等に平らに砥石表面に押しつけることを意識しながら上下に動かして研いでいきます。

 

この時のコツは、上下する時に力を込めるタイミングです。上に押す時には力は入れてはいけません。下に引く時に、刃先を平らに押しつけながら少し押しつける力を意識して引いてきます。(画像の矢印の方に引く時に押しつける力を意識します。)

 

 

その時もぎゅーっと押しつけるのではなく、気持ち指先に力を込める、程度でOKです。最初のうち角度を一定に保つのが難しいな、と思われる時は、小さいスライドでも構いません。角度を一定に保つ感覚がつかめてきたら、スライドを段々と大きくしていきましょう。

20回程研いで刃全体が均等に研げているか、刃先にカエリが出ているかを確認します。カエリとは、刃面を研ぐと先が削れて裏側にめくれていくことです。カエリが出ているか確認するには、刃の裏側から指で触ってみると分かります。

 

 

カエリが出ていればOKですので、再び包丁を裏返して、裏押しと同じようにして1,2回だけ力を入れずに軽く研いでカエリを取っておきます。これで荒研ぎは終了です。画像は荒研ぎが終わった表側の状態です。

 

 

 

中研ぎ

次は中研ぎです。両面のダイヤモンド砥石をお持ちの方は#400の荒研ぎからそのまま砥石を裏返して#1000で、その後中砥#2000へと研ぎ進むのが良いと思います。既存の砥石で#1200程度のものだけをお持ちの方はその砥石だけで研ぎ上げても結構です。今回、私は中研ぎとしてダイヤモンド砥石#1000→刃の黒幕#2000へと研いでいくことにします。

 

中研ぎのやり方とコツ

吸水が必要な人造砥石をお使いの方は、水に漬けておいた中砥を研ぎ台にセットして下さい。十分水に漬けていた砥石は水をたっぷりと含んでいると思います。刃の黒幕は保管ケースを研ぎ台にしてセットし、水をかけて濡らしてあげましょう。

 

包丁を研ぐ前に、念のためにまず面直し砥石で砥石表面全体を研いでいきます。(ダイヤモンド砥石の場合は不要です。)普通は研ぎの最後に入念に平らにしてから保管しますのでそうされている方はこの時点での作業は飛ばして結構です。面直し砥石も水で濡らしてから砥石表面全体を平らにならしていく意識で上下、あるいは少し斜めにスライドさせながら均等に平らにしていきます。

 

 

どうなれば平らなのか、というのは中々難しいですが、簡易的な方法としてステンレス定規をあててみて隙間がないか確認する、というのが比較的簡単かと思います。

 

 

さて、中研ぎの研ぎ方自体は荒研ぎと同じです。まず表の刃を研いでいきましょう。刃先から水がにじんでくる角度を保ちながら上下に20回程ストロークします。中仕上げ位になると、20回ではカエリが出ないかもしれません。

 

刃全体が均等に研げているか、刃先の角度が変わっていないかを確認します。角度が上がってくると、刃先の方しか研げなくなります。角度が下がってくると刃の根元の方まで研がれてしまいます。適切な角度を見極めながら、また一定に保ちながらカエリが出てくるまで10〜20回を1セットにして研いでいきます。

 

中研ぎの際のコツは研ぎ汁です。包丁を研いでいると研糞(トグソ)という、名前はちょっとあれですけど、研ぎカスみたいなのが出てきます。これが水に溶けたのが研ぎ汁ですね。画像の黒いのがそうです。

 

 

この研ぎ汁で包丁を研いで行くのが鉄則です。従って、段々と水がなくなってきて水を足す時にドバーっとかけてこの研ぎ汁を流してしまうと研ぎの効果が半減してしまう、ということになります。水を足す時は、研ぎ汁が流れてしまわないように、指でちょんちょんと少しずつ水を足していきましょう。

 

ダイヤモンド砥石#1000で研ぎ終わった表面の状態はこんな感じです。先程より少し光ってきました。

 

 

カエリが出て来たら、裏側を研いでいきます。裏を研ぐ前に、ダイヤモンド砥石以外の場合は面直し砥石でまた平らにしておきましょう。「そんなに何度もやるの?」っていう位しつこく面直し砥石で常に平らにしておくことをお勧めします。結果的にそれが、早く、切れ味良く研げることに繋がります。

平らになりましたら、裏押しの時のやり方と同様に、裏側を平らに研いでいきます。ダイヤモンド砥石以外の方はこの時点で砥石が平らでないと裏押しになりませんので、しつこいですが、かならず面直し砥石で平らにしてからやって下さい。

#400の時よりも少しずつ表面が滑らかになってきます。#400の時よりも荒々しさが少し取れてきました。

 

 

ダイヤモンド砥石#1000で研いだ方はもう少し細かい砥石(#1200〜#2000)で同様に研いでいきましょう。ここでは刃の黒幕#2000で研いでいきます。

 

 

この黒い汁を大事にしながら研ぎます。水をつける時はこんな感じでちょんちょん、とやって下さい。

 

 

何度か研いでいるとこんな具合になってきます。黒い汁に溶けている磨き粒子で刃の表面を滑らかにしていく意識で研ぎ進めます。

 

 

荒研ぎの段階ではかなり傷だらけだった包丁も中研ぎが終わるとこんな感じになってきます。画像は#2000で研ぎ終わった後のものです。

 

 

 

画像ではちょっと分かり難いでしょうか。だいぶ傷がなくなり光ってきた感じです。

 

簡易仕上げのやり方

もう少し本格的にやりたい方は、#5000〜#8000またはそれ以上の仕上砥を揃えて精進して頂くのも良いかと思います。(別の機会にまたご紹介します。)ここでは、簡易的な仕上げとしてピカールを用いたやり方をご紹介します。

 

まず革の床面の切れ端と平らな板のようなものをご用意下さい。ガラス板が最適です。革は床革があれば便利ですが無くても普通の革を裏側にすればOKです。そこにピカールを少し垂らします。

 

 

包丁で垂らしたピカールの液を塗り拡げながら、表の刃面を革にあてて引きます、引きます、また引きます!と何度かやってみて下さい。押すと革が切れますんでご注意下さい。何度かやりましたら次は包丁を裏返して、裏面を平らに押しあてて引きます、引きます、また引きます!

 

 

 

裏側は布にピカールを取って指で磨いても良いですが、刃先で切らないように慎重にやって下さい。このようにピカールで何度か磨いていくと、さっきよりは少し鏡面っぽくなってきますので満足するまでやった所で仕上げ完了となります。

 

 

 

どうでしょうか。刃先数ミリは完全に鏡面になりました。それ以外のところもだいぶ光っています。

 

仕上げ完了、となると試し切りをしてみたくなるのが人情ってものでして、色々やり方はありますが、私は新聞紙で試しています。新聞紙の端に刃先をまっすぐにあててちょっと動かしてスムーズに刃が入っていくかどうか。あまり満足いかない場合は、再度中仕上げからやり直す、ということになろうかと思いますが、多少不満でもやり直したことはありません(笑)。

 

砥石のメンテナンス

さて、全て研ぎ終わりましたら、次に使うためにダイヤモンド砥石を除いて全ての砥石にじっくりと面直し砥石を当てて平らにしておきましょう。なお、全く同じ砥石を同時に2つ(本当は3つがベスト)購入して、これらの砥石を常にすり合わせることで砥石表面を平らに保つというやり方もありますが、コストも含めてあまりお勧めしません。

 

砥石表面が平らになりましたら、陰干しして良く乾かして、完全に乾いてからしまうようにして下さい。なお、キッチンで研ぎをされた場合、あちこちに研ぎ汁が飛び散っていると思います。ほっておくとかなり汚れが目立ちますので綺麗に拭き取って終わりましょう。

 

 

最後に

さあ、この記事では入門編として革包丁の研ぎ方をご紹介してきましたが如何でしたでしょうか。

 

靴作りやレザークラフトってホントに楽しいですよね!そんな皆さんのレザーライフに、少しでも参考になれば幸いです。

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