こんにちは、MSY代表のブンと申します。
中底加工が完成したら、次は釣り込み作業に進みます。
釣り込みは、アッパーを「引っ張る」「釘で留める」「叩く」事で木型のラインを革に覚えさせる工程です。特にしっかりと叩くことでエッジの効いた輪郭が生まれます!
「靴は叩いて作る」という言葉もあるそうです。
この記事では先芯(つま先の芯材)・月型芯(かかとの芯材)の選び方から、釣り込み作業の全工程を紹介いたします。両足を同じペースで進め、左右のバランスを見比べながら進めるようにしてみてください。
この工程は、ハンドソーンウェルテッド製法をベースに記載しておりますが、マッケイ製法 / セメント製法の場合も同様です。製法による相違点は適宜、本文中に記載しています。
なお、「靴作りの趣味を広めたい」という共通コンセプトのもと靴学校921(クツビト)さんにご協力いただき、YouTube動画を活用させて頂いております。この場を借りてお礼申し上げます。
芯材(先芯・月型芯)の素材選定
本記事で紹介する芯材は、2種類があります。
先芯 | つま先のアッパー(甲革)とライニング(裏革)の間の芯 |
月型芯 | かかとのアッパーとライニングの間の芯 |
芯材のもともとの役割としては靴の形状を保ち、足を保護するためらしいです。ちなみに、鏡面磨きの輝きを保てるのも、これら芯材があるおかげですね。
では、どのように入手すれば良いのでしょうか。
芯材を買う場合
まずオススメしたいのは芯材としての商品を買う事です。ネット通販で手軽に買えます。先芯の素材は、主にポリテックス素材 or 床素材の2種類があります。
・床素材
・ポリテックス素材
後述いたしますが、人によって使いやすさは異なります。好みで選びましょう。
月型芯は床素材が一般的かと思います。
素材については下記記事の「先芯」「月型芯」項目を参照下さい。
芯材を作る場合
もちろん、自分で作る方法もあります。思い通りの厚みや形にしたい場合は
下記921さんの説明動画をご参照ください。
※靴学校921さんの動画ではサイド部分に補強用の芯材もいれていらっしゃいますが、本記事ではそちらは割愛させていただきます。
必要な工具
次に必要な工具についてご紹介します。
工具一覧
この記事では下記の工具を使用しています。
- ワニ
- 革包丁
- 釘(19x19mm)
- 釘抜き
- ハンマー
- 接着剤(*1)
- カウンターセメント(*2)
- 歯ブラシ(接着剤、カウンターセメント塗布用)
- シートディップ(ポリテックス製先芯の場合)(*3)
- タックス(9.5mm)※鉄板有り木型の場合
- 紙ヤスリ
*1:「接着剤」は色々な商品が販売されています。
一例としてたとえば、通販でも手に入れやすいものであれば下記があります。
・スリーダインLS-60
*2:「カウンターセメント」も様々な商品があります。
一例として下記を紹介いたします。
・ノーテープ4400
*3:ポリテックス製の先芯を使う場合はこちらを使用します。
・シートディップ
代用品やジェネリックも各工程の中で紹介いたします。工具一覧については下記記事をご参照ください。
木型の鉄板の有無について
鉄板あり
鉄板なし
写真のように、かかとに鉄板のあるタイプとないタイプが存在します。鉄板の有無によって下記の通り、かかとのアッパーの処理が異なります。
鉄板あり | タックス(短い釘)で留める |
鉄板なし | 縫って留める(からげ縫い) |
どちらを使うかは好みです。
本記事では鉄板なしでの動画をベースにしていますが、鉄板有りの場合の方法も併記しておりますのでご安心ください。
木型のかかと位置について
かかと(特にくるぶし)の位置を考慮して木型に線を引いておくと後ほど作業がし易いです。
線を引く目安としては、
・普段自分が快適に履いている靴に、木型をいれてみる
・自分の足の裏からくるぶしまでの高さを測ってみる
などです。
位置が高すぎるとアッパーがくるぶしに当たってしまい、低すぎると脱げやすくなってしまいます。是非ベストな位置を探してみてください。
芯材のクセ付け
それでは、実際に作業をすすめます。
月型芯のクセ付け方法
月型芯を水に濡らしてよく揉んでから、木型の中心と合わせて釘で留めます。銀面 or 床面のどちらを木型側にするかは自由です。
釘1本目。
しっかり馴染むように引っ張りながら、全部で8本ほど留めます。
先芯と異なり、月型芯を直接ハンマーで叩けるのは今だけです。革を叩く音→木型を叩く音に近くなるまでしっかり叩きましょう。
先芯のクセ付け方法
床素材の場合は、同じように水に濡らしてよく揉んでから、中心を合わせて釘で留めます。
釘1本目。
シワを伸ばしながら引っ張り、6本ほどで留めます。
後ほどしっかり叩くので、先芯を叩くのは今はほどほどで大丈夫です。
ポリテックス素材の場合は、今は何もしなくて大丈夫です。
先芯・月型芯ともに出来れば一晩以上おいて、しっかりクセ付けをしましょう。
仮釣り込み(釘10本)
仮釣り込みでは、釘10本ほどでアッパーを固定します。仮釣り込みは、完成後のバランスに影響を与える重要な工程です。
クセ付けした先芯・月型芯は取り外してから進めます。(中底は付けたままです)
仮釣り込み全体で共通する流れとして、
- ライニングだけをワニで引っ張り、親指で抑える
- アッパーだけをワニで引っ張り、親指で抑える
- ライニングとアッパー両方をワニで引っ張り、親指で抑える
- 釘で留める
こちらを意識しましょう。結構、力が必要ですね。。
ついつい親指が浮いてしまうと思います。何度もやって体でコツを覚えましょう!
「木型が抜けない!泣」を未然に防ぐ
仮釣り込みに進む前に一つ気にしたいポイントがあります。
しっかりと力と心を込めて釣りこめば釣り込むほど、靴完成後に木型が抜けにくくなります。そのための対策として2つほど紹介いたします。
・ベビーパウダー
ピジョン 薬用ベビーパウダー ブルー缶 150g (医薬部外品)
木型にベビーパウダーを刷り込むことで滑りを良くします。
※靴職人であり、靴ブログ化の革を運営されているカタオカさんに教えてもらいました。
・ビニール袋
ヘイコー ビニール袋 ヘイコーポリ No.1512 0.015mm厚 200枚 006615012
一度木型の釘をすべて外してから、木型を薄いビニール袋でスッポリ被せます。出来るだけ薄手のものが良いです。中底を外すことに抵抗があるかもしれませんが、しっかりクセ付けされていれば再取り付け時にズレることはないので心配ありません。
どちらの方法も、絶対必要というわけではありません。
他にオススメの方法をご存知の方はご連絡いただけると嬉しいです!
つま先の仮釣り込み(3本)
月型芯のアッパー側にうっすらと満遍なくカウンターセメントを塗ったあと、アッパーとライニングの間にいれて良く馴染ませます(前後に引っ張る)。
月型芯のライニング側にも同じようにカウンターセメントを塗り、木型とアッパーの中心を合わせて被せます。
釘で中心を1本留めます。最初にも書きましたが、ライニングのみ → アッパーのみ → 両方 の順番でしっかり引っ張って釘で留めます。
つま先のサイド(中心の釘から5~6cmほど)両脇を留めます。
コツは動画をご参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ1」 4:58-8:34
かかとの仮釣り込み(3本)
続いてかかと部分です。
前述の通り、先にライニングをしっかり引いてからアッパーを引きます。ライニングの引きが甘いと履き口が緩くなってしまう恐れがあります。
事前に引いた目安の位置まで来たら、かかとに1本打ちます。デザインの邪魔にならないよう、好きな位置で大丈夫です。
底面の真ん中にまず一本、その両サイドにも1本ずつ打ちます。
これで底面に6本打ち終わりました。紐靴の場合は出来上がりの羽根の開き具合をこのタイミングで調整します。理想とする開き具合の状態でギュッと靴紐を結びましょう。
サイドの仮釣り込み(4本)
同じようにサイド部分に4本打ちます。
釘を外側から斜めに入れ、起こしながら打ち込むとキレイに引っ張れます。
アッパーがしっかり木型に吸い付いている感じはありますでしょうか?
浮いていたり大きなシワがある場合は、今ここで修正しましょう!あとでは治りにくいです。
直し方のコツは動画を参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ2」2:25-7:08
これで仮釣り込み(底面10本)が完了です。特に最初のうちは思い通りにいかないのが普通です。
たとえば、初めての場合は月型芯を入れずに仮釣り込みを終え、ある程度形を作ってから釘を全部外して月型芯を入れてやり直すのも手です。
本釣り込み
ここからは本釣り込みとなります。10本の釘を順番に外していき、細かく細かく打ち直すことでアッパーに木型の形しっかり覚えさせます。
このとき、引っ張る力を一定に保って進めるのが重要です。釘を打ち直すたびにワニの引っ張る力を変えてしまうとシワが偏ってしまうためです。
本釣り込みの打ち込みはは下記手順で進めます。
- 仮釣り込みの釘を1本外す
- ライニングだけをワニで引っ張り、親指で抑える
- アッパーだけをワニで引っ張り、シワを整えて親指で抑える
- ワニの底で叩いてクセをつける
- 釘で留める
前述の通り木型の鉄板有無によって工程が少しだけ異なります。
サイドの本釣り込み(1回目)以降の工程は共通となります。
かかとの本釣り込み(鉄板無し)
仮釣りの大きな膨らみを細かく分けるには、まずワニの使い方が重要です。斜めに掴んで引き、手首を返すことでシワの位置を移動させます。
コツは動画をご参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ3」0:10-3:23
(シワの分け方、前に打った釘の引きが甘いときの直し方)
かかと全体をハンマーで叩いてクセつけします。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ4」0:00-5:38(全体のコツ)
かかとの本釣り込みが終わった状態です。
シワをしっかりと内側に収めることが出来ましたでしょうか?
では、サイドの本釣り込み(1回目)へ進みます。
かかとの本釣り込み(鉄板有り)
鉄板有りの木型の場合も、ほぼ同様の手順で進めることが出来ます。
違うのは、釘です。
・本釣り込みに使う釘
鉄板なし木型:釘(19x19mm)
鉄板あり木型:タックス(9.5mm)
鉄板なし木型の場合は、本釣り込みで打った釘は後ほど抜いて、「からげ縫い」でアッパーを固定します。
鉄板あり木型の場合は、本釣り込みで打ったタックスを抜くことはありません。タックスの先端が鉄板に当たってカシメられ、しっかりアッパーを固定してくれます。
鉄板ありの木型でからげ縫いをすることも可能ですし、どちらの木型を選ぶかは、好みで良いかと思います。
なお、打ち込んだタックスの位置はトレースしておくと後々便利です。
次の工程で本底・ヒール部分を釘で取り付ける際、今打ち込んだタックスとぶつからないようにするためです。
このようなイメージです。
※別工程での作業写真ですが、同じです。
トレースするには幅広の荷造りテープが便利です。
詳しいトレース方法はこちらをご参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「本底加工2」(別工程ですが、手順は同じです。)
サイドの本釣り込み(1回目)
続いてサイド部分です。
同じように仮釘を外して本釣り込みをすすめていきます。
サイド部分については、つま先の本釣り込み完了後に最終手直しをしますので、ここでは(1回目)としています。
かかとと同様の手順で釣り込みます。
土踏まずをエグるような木型ですと、この作業の難易度が上がります。
革の張り具合を指で確かめつつ進めましょう。釣り込めたあとは、余ったアッパーの処理をします。
ここは製法によって若干異なります。
ハンドソーンウェルテッド製法の場合(アッパーと中底をすくい縫い)
すくい縫いのときに邪魔になるため、余ったアッパーは写真のように切り落とします。目安としてはリブの溝(内側)がギリギリ見えるくらいです。
※写真の通り
マッケイ製法の場合(アッパーと中底をからげ縫い)
からげ縫いする溝の目安を決めて、その溝がギリギリ見える程度にアッパーを切り落とします。溝の目安は、ハンドソーンウェルテッド製法の溝(内側)と同程度で良いかと思います。
※こちらについては別の機会に追記したいと思います。
セメント製法の場合(アッパーと中底を接着剤で接着)
接着面が多いほど安定するため、なるべくアッパーを多く残します。
※なお、マッケイ製法でもこちらを選択する事も可能です。
つま先の本釣り込み(ライニング&先芯)
まず、仮留めしたつま先の釘3本を同時に外します。
釘を外すことに躊躇されるかも知れませんが、かかと&サイドの釘でしっかり釣り込まれているので問題ありません。
ライニングは接着剤のみで釣り込みますので、接着面をヤスリで荒らしてから、中底とライニングの両方に塗布します。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ5」0:25-1:50
(ヤスリで荒らして、のり塗布)
数分〜してのりがある程度乾いてから、つま先の中央を引っ張ってグッと抑えます。
接着剤が効いて固定されるはずです。
細かくシワを寄せてライニングを釣り込んだあと、エッジラインが水平になるよう革包丁で凸凹を修正します。
そして、つま先全体をしっかりと叩きます。
コツは、動画をご参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ5」1:50-7:51
続いて先芯を取り付けます。素材によって2種類紹介いたします。
床素材の場合
先芯を載せる場所に薄く均一に接着剤を塗布します。
先芯を水で濡らし、つま先に乗せます。
はみ出たカウンターセメントは必ず拭き取りましょう。残っているとライニングとアッパーがくっついて釣り込みがしづらくなるかもしれません。
木型のエッジラインをキレイに出すように、ハンマーで叩きます。
ライニングの底面、凸凹した部分は切り落とします。
これで先芯の釣り込みは完了です。ポリテックス素材の場合は下記を参照ください。
ポリテックス素材の場合
こちらの場合は、先芯を水ではなく溶剤(シートディップ)に浸して使います。
この素材の先芯の場合、つま先に定着させるのが難しいと思います。(ベトベト手についてくるため・・)
その際はハンマーの面にシートディップをつけて、円を描くように押し付けるとやりやすいです。
数時間〜ほど置くとカチカチに固まっていますので、エッジのラインや全体バランスをみて革包丁やヤスリで整えて完了です。
参考写真が無くすみません。。
つま先の本釣り込み(アッパー)
ライニングと先芯を釣り込み終えましたので、ついにアッパーに着手します。
釣り込み易くするため、アッパーの裏側を軽く濡らします。
接着剤を薄く伸ばして塗ります。
中心が合っているかよく見て釣り込みます。まず1本目。
3本打った状態。
2つの大きなツノがある状態になったと思います。これを細かくまとめていきます。
靴になった時にアッパーにシワが見えない事を意識しましょう。
つま先からサイドあたりまでのまとめ方のコツの動画です。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ6」2:32-7:53(つま先からサイドまでのまとめかた)
まとめおわると、このようになります。
革包丁で丁寧に切り落とします。
余ったアッパーを切り落とした状態です。
余ったアッパーの処理については、繰り返しになりますが…
ハンドソーンウェルテッド製法の場合(アッパーと中底をすくい縫い)
すくい縫いのときに邪魔になるため、余ったアッパーを写真のように切り落とします。
マッケイ製法の場合(アッパーと中底をからげ縫い)
からげ縫いする溝を決めて、その溝がギリギリ見える程度にアッパーを切り落とす。
セメント製法の場合(アッパーと中底を接着剤で接着)
なるべくアッパーを多く残す。接着面が多いほど安定するため。
※マッケイ製法でもこちらを選択することも可能です。
ここは、根気よくシワを取る作業になります。迷ったら釘をぬいて打ち直すのが大切です。
動画でも御覧ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ7」8:48-13:05
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ8」0:00-3:15
このように、釘より外側にはシワがない状態が理想です。
つま先全体をハンマーでよく叩き、慣らします。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ8」3:15-3:28(つま先のハンマー)
これでつま先の本釣り込みは完了です。
サイドの本釣り込み(2回目)
再度をサイド釣り込みます。あっ、ちがう。
サイドを再度釣り込みます。
こうすることで全方位的シワがなく、木型の曲線がキレイにアッパーに反映されると考えられます。
このようにタルミがのこっており、まだエッジが出ていません。木型のラインがしっかり革に反映されていないのが写真からもわかると思います。
これまでと同様の手順で釘を抜いては釣り込み直します。目安として、1cm間隔程度で打ち直します。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ8」3:40-7:17(サイド)
以上でサイドの釣り込みも完了です。
仕上げ(ハンマー)
ついに、釣り込み最後の工程です。
全体をハンマーでしっかり叩きましょう。
しかし「叩く」事が目的ではありません。大事なのは、「木型のラインをアッパーに反映させる」ことです。
ポイント
- ステッチ(アッパーの縫い目)の上はしっかり叩く
- ヴァンプ部分など、ハンマーの跡が残りやすい箇所は叩かない
- ハンマーの音の変化で判断する(木型自体を叩いてる音を目指す)
動画もご参照ください。
※動画引用:靴学校921さん「手元映像 靴のつりこみ8」8:15-10:10(仕上げハンマー)
余ったアッパーの処理をします(詳細略)。
これで、釣り込みは完成です。
最後に
いかがでしょうか。
木型の曲線がアッパーと溶け合い、そこに靴が現れたのではないでしょうか。
この記事は靴学校921さんの動画を参考にさせていただき、MSYで解釈した内容になります。何かお気づきの点があればお問い合わせよりご連絡いただけますと幸いです。
靴作りにも色々なやりかた、考え方があります。これが唯一の正解というわけではありません。
是非、試行錯誤して情報を共有しあうことで、靴作りの楽しさが広まっていって欲しいと考えています。