【掬い縫いの道具と材料】初めから専用のものを買う方が良いのか?の考察

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皆さん、週末のひとときを靴と如何お過ごしですか?
この週末も靴と戯れておりますMSYのTomi(@tmkprch)と申します。こんにちは。

 

さて、これまでのMSY記事で釣り込みまでの工程はご紹介してきました。(釣り込み記事はこちら
次はいよいよ手作り靴の醍醐味、ハンドソーンウェルテッド製法の底付けをご紹介しようと思うのですが、その前に「ちょっと待った!」です。

 

道具記事材料記事でご紹介していますが、ここから先の工程は、一気に専用の道具や材料が出て来るんです。聞き慣れないものもあるかと思いますので、ここではハンドソーンウェルテッド製法の名前の元になっている「掬い縫い(すくいぬい)」工程における道具と材料について考察をしてみたいと思います。

 

専用の道具や材料をすぐに買いたい!という方はこの記事を読むまでもなくマモルさんのような製靴材問屋さんでお買い求め頂ければ良いかと思います。

 

いきなり専用のものを買うのではなく、代替出来る汎用品はないのか?と思われている方にはぜひこの記事をご覧頂きたいと思います。
という事で、ちょっとマニアックな記事になっていますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

 

掬い縫い工程で使用する道具と材料

まず最初に、一般的にこの工程で使用する道具と材料をご紹介します。ここで「一般的」と言うのは「靴作りを紹介している市販の書籍や靴学校921さんで紹介されているもの」を指します。いわゆる製靴材問屋さんで売っている専用のものや自分で加工して作るものが多いです。後でひとつひとつ詳しく見ていきますので、ここでは一覧でご紹介します。

 

結論を「お勧め」に書いています。後述する考察で色々試しましたが、特に材料は専用のものを購入するべし!です。

 

道具一覧

 

掬い針(錐)

 

おすすめ:製靴材問屋さんで購入

中底からアッパーとウェルトを貫通させる錐です。これは代替が利かない専用道具ですのでマモルさんなどでお買い求めをお勧めします。

 

底付け用ハンマー

 

おすすめ:製靴材問屋さんで購入

靴作りでは製甲用など様々なハンマーがありますが底付け用ハンマーというのを使います。

 

釘抜き

 

おすすめ:ニッパーで代用出来ます

釣り込みで留めた釘を抜くものです。ペンチタイプとバールタイプと大きく2種類あります。(画像はペンチタイプ)

 

掬い縫い用の金針

 

おすすめ:自作をお勧めします

市販の「ふとん針」を加工して自分の掬い針(錐)の角度にあわせて作成します。マモルさんで最初から曲げ加工してある金針を購入することも出来ます。(画像)

 

銀ペン

 

おすすめ:東急ハンズなどのレザークラフト売り場で購入

革に銀色の印を書けるペンです。レザークラフト道具として販売されていますので比較的手に入れ易いです。

 

水用の刷毛

 

おすすめ:ホームセンターなどで購入

水分を含ませるのに使います。ヨージ刷毛として売っているもので結構です。

 

わげさ

 

おすすめ:100均のベルトをつなげる

皆さん自作されていますので市販品は見かけません。古いベルトをつなぎあわせるだけなので比較的簡単に作ることができます。

 

掬い縫い用の台

 

おすすめ:無くても問題なし

使わずに作業する方が一般的かもしれませんが、こういうものを利用する方もいます。

 

手を保護するもの

 

おすすめ:100均の作業用手袋

掬い縫いの糸を引き締める際に手を保護するものです。市販されていませんので自作します。

 

 

材料一覧

 

掬い縫い糸

 

おすすめ:製靴材問屋さんで購入

画像は麻糸9本撚りです。

 

ウェルト

 

おすすめ:製靴材問屋さんで購入

要は細い革なので自作可能ですが製靴材問屋さんで入手可能です。

 

チャン

 

おすすめ:製靴材問屋さんで購入

松ヤニです。自分で加工して仕上げが必要です。

 

ロウ

 

おすすめ:東急ハンズなどのレザークラフト品売り場で購入

掬い縫い糸の滑りをよくするためにつけます。レザークラフト用のロウと同じですので比較的入手し易いです。

 

なお、靴作り全般に亘っての道具と材料の詳細な紹介と入手先はこちらのページをご参照下さい。

 

 

専用のものを買わないとダメなのか?の考察

さて、上でご紹介した道具と材料について、詳しくご紹介していきます。ポイントは、代用品で行けるのか?です。

 

金針

これは結論から言うと、自作をお勧めします。製靴材問屋マモルさんで既に曲げ加工された完成品を買うことが出来ますが、ちょっと太くて短いので、特に掬い縫い作業を始めてやる方には使いづらいと思われるからです。

 

 

画像の左側の2個の針が私がふとん針を加工して作ったもの、右側の2個がマモルさんで売っている金針(細)です。左のものに比べると少し短くて太いのがお分かりでしょうか。

 

 

マモルさんの金針を掬い穴に刺すとこんな感じです。もちろんこれでも出来ます。ですが、かなりキツキツで長さも短いので慣れていないと手こずります。

 

 

こちらはふとん針で作ったものです。少し穴周りに余裕があって針の長さも十分ですので指でしっかりつまんで引っ張り易いんです。特に初めてこの作業をされる方にはこちらの方がやり易いと思います。ふとん針の加工の仕方も靴学校921の動画で紹介されていてます。ぜひチャレンジしてみて下さい。

 

掬い針(錐)

これは素直に製靴材問屋さんで購入しましょう。マモルさんでは日本製とイタリア製が販売されていますが、形が異なっており好みで分かれると思います。また、イタリア製の方が品質が安定しているようです。

 

 

右が日本製、左がイタリア製です。私は主にイタリア製を使っています。かかと周りのからげ縫いをする時にたまに日本製のものを使います。単純にイタリア製の方が好きという好みの問題と、カーブの具合や長さなどで適した方を使っているだけです。

 

 

先の方を拡大するとこんな感じです。日本製の方がカーブが大きくて長いですね。どちらも買ってきた後、自分で研ぐ必要があります。靴学校921さんの動画に詳しく紹介がありますのでぜひご覧下さい。

 

 

また、イタリア製にはカーブや長さ違いの交換出来る刃が売っていますので、これも好みや適した場所に応じて使い分けると良いと思います。私は掬い縫い時は一番長くてカーブも大きいものを使っています。

 

釘抜き

最初はダイソー「ニッパー」で代用出来ると思います。

 

 

 

靴用の釘抜き(ペンチタイプ)はこんな感じで釘を挟んで抜きます。
ニッパーは先が尖っているのでなかなか使いやすいです。こんな感じ。

 

 

ちょっと小さいのが難点でしょうか。でも十分です。しかし、中底を留めているようなめり込んでいる釘はニッパーでは難しい場合があります。(釘抜きでも難しいです)こんな奴。

 

 

ここまでめりこんでいるとつかめないんです。こういう場合は別のタイプの釘抜きを使いましょう。こいつが最強です。バール型の釘抜き。

 

 

こんな風に溝でクイっと引っかけてヒネると取れます。ワニの持ち手の先がバール型釘抜きになっているものもありますのでそれだと一石二鳥ですね。

 

底付け用ハンマー

底付け時のハンマー使用場面は多く、ハンマーは極めて重要な道具です。掬い縫い中はあまり使いませんが、縫い終わった後の縫い目部分を平らにする時や本底を貼り付ける際などは力を込めて叩きます。従って、市販のハンマーでも構いませんが、ある程度の大きさや重さがあった方が作業がやり易いです。

 

 

画像はダイソーのハンマーです。ミニパイプハンマーは小さいため底付け用としてはお勧めしませんが釘打ち用には活躍してくれます。ゴムハンマーは釘打ちは出来ませんが、力を込めて叩く分にはこちらの方がやりやすいです。

 

 

私が持っている底付け用ハンマーです。マモルさんで買ったもので、赤いのがイタリア製の中サイズ、右側のがマモル定番の底付け用小サイズです。

 

 

たたく部分のサイズ感はこんな感じです。今度は右側がイタリア製の中サイズで直径約3.3センチ、左側が定番品小サイズで直径約2.6センチ。数字以上にこの違いは大きくて、小サイズのハンマーで濡れた本底を思い切り叩いていると跡がかなり残ってしまいますし、何より面積が小さいので沢山叩かないといけません。ダイソーのミニパイプハンマーはこの小サイズよりもっと小さいので推して知るべしです。

 

銀ペン

これは製靴工程全般にわたって良く使いますから購入することをお勧めします。製靴材問屋さんでなくとも、東急ハンズやユザワヤなどのレザークラフト品売り場でも売っています。
もっというと、銀色のボールペンでも代用になります。但し、銀ペンよりもインクがたくさん出てしまって、革が汚れやすいので気を付けて下さい。また、銀ペンよりも消え難い場合もあるようです。

 

 

右がプロ用銀ペンとしてレザークラフト売り場で売っているもの。左がUNI-BALL Signoの銀色です。(普通のボールペン)ボールペンの方がインクの水分が多い感じで指でこすると汚れやすそうです。

 

 

これを消しゴムで消すとこうなりました。右側の銀ペンは綺麗に消えていますが、ボールペンは少し後が残っています。ここまでだとボールペンの利点は無さそうですが、、、

 

 

こういう、スエードのようなものだと銀ペンのインク乗りが悪いんです。ボールペンの方がハッキリと見えますよね。

 

水用の刷毛

何かと良く使うので実は重要だと思っています。私は「かなやブラシ」さんの山羊毛のものを使っています。(画像の下のもの)水をたくさん吸って、広い面積(底面全体)も細い部分(コバ部分)もどっちも塗り易いのが理想です。画像の上がヨージ刷毛でして、これでもいいのですが、どちらかというと接着剤を塗り広げる用途でしょうから、水分の保持力が弱いため、何回も塗らないといけなくなります。

 

 

わげさ

自分の足の長さに応じて!作りましょう。私のものはもう不要になった子ども用のベルトをつなげて使っています。作った時は短いかなと思いましたが、丁度良かったです(笑)

 

掬い縫い用の台

なくても困らない、と思います。実は私はこれ無しでやったことがなくて、始めて掬い縫いをやる前に、先にこのような台を作りました(笑)

 

 

以前、Instagramの動画でVASS(ブダペストの有名な靴メーカー)の職人さんがこんなものを使って掬い縫いをしているのを見て、まだ掬い縫いをしたこともないのに、先にこの道具が欲しくなって作りました。
靴学校921さんも似たようなものを動画の中で使っています。しっかりと靴が固定されるので特に始めてやる方にはあると便利なんだと思います。構造は至極単純なので、DIYがお好きな方は自作にチャレンジしてみて下さい!(ホームセンターの端材と10ミリ太さのボルトだけで作れます)

 

 

木型を乗せるとこんな感じです。自分の足のサイズに合わせてボルトと枕の位置を決めましょう。木型の下にあいている穴にわげさを通して木型を固定します。

 

 

膝の上にこうやって乗せて作業します。靴学校921さんのは椅子みたいなものと一体になっていて膝の上に乗せなくても作業出来るようになっていますね。

 

手を保護するもの

職人さんはそれぞれ色々な形のものを使っていますが、総じて左手に装着する当て革様のものです。私はこれまで2つ自作しました。はい、道具フェチなんで。
一つ目は、手袋を作る要領で作った、手の甲の部分のみのものです。
二つ目は、靴学校921さんが使っているもののように、手のひらの真ん中だけにしたものに、やはり一つ目と同じように親指と人差し指の部分にも覆いをつけたものです。

もちろん、軍手のような作業用手袋でも全く問題ありません。

 

 

 

材料は代替できるのか?

素人にとって問題は専用材料です。マモルさんの通販で買えるとはいえ、最初はなかなか敷居が高いですよね。本格的にやりたい方は、製靴材問屋さんで買って下さい。ここでは、最初はなるべく専門材料は買わずにやってみたい、という方向けに代替材料について検討してみましたのでご紹介します。

 

掬い縫い糸

なんと言ってもこれがネックです。丈夫さ、太さ、針の付け方など専用材料と同等レベルのものがあるのでしょうか?
代替材料候補としてこの2つを買ってみました。いずれもユザワヤさんで買いましたので同等の手芸店で入手可能と思います。
選択基準は、「太さ」と「丈夫さ」「針の付けやすさ」です。

 

 

いずれも、紐を編み込んで作る手芸用の材料として売っているものです。左が「マクラメコード」という化学繊維のもの、右が「ヘンプコード(ユザワヤ製・細サイズ)」という天然繊維ものです。ヘンプ(大麻)ですので、レザークラフトで一般的に利用するリネン(亜麻)やラミー(苧麻)と比べるとかなり粗い感じです。

 

 

こちらが、靴材料としてマモルさんで手に入る麻の玉糸(9/16)です。16号糸を9本撚っている、という意味ですね。その名の通り素材はラミー(苧麻)ですのでヘンプとは手触りが全然違います。(ヘンプよりも滑らかです)

 

 

太さを比べてみましょう。一番左が玉糸。太さは約1ミリです。真ん中がマクラメコードで約0.7ミリ(表記上)。右がヘンプコードで簡易ノギス上では0.9ミリ位といった所。

 

さて、ここから問題になるのは、本来の掬い縫い糸が果たすべき強度の問題と針の付け易さなどの使い勝手の問題かと思います。

 

強度については、化学繊維のマクラメコードはそこそこ強いのではと考えます。ヘンプコードは素材の差として玉糸よりも弱いと思われますが、実際靴用に使った場合に使えないレベルの弱さなのかは耐久実験をしてみないことには何とも言えませんが、格段に強度が弱いということもないのではないか?とここでは一旦置いておきます。

 

使い勝手は、正直微妙です。針に付けるために玉糸では糸先を細くする加工をしますが、ヘンプコードはほぼ同じ加工が出来ますので、靴学校921さんの解説動画の通りに作業をすることが出来ます。

 

 

こんな感じで糸先を細く漉いていき

 

 

このように加工することが出来ますので「形状的には」針には付け易いです。しかし、この場合の問題は、玉糸の場合と同じように糸にチャンをすり込むという加工が必要だということです。どうせこれをやるならば、最初から玉糸を使った方が良い、ということになります。

 

マクラメコードの場合は、化学繊維ですので玉糸やヘンプコードのように糸先を徐々に細く加工する、ということがほとんど出来ないのではないかと思われます。(良いやり方をご存知の方はご一報下さい)
その一方で、糸先をライターで炙ってハンマーで潰すと簡単に平らになります。

 

 

こんな感じでそのまま針穴に通して潰した根元に針先を通すと、、

 

 

このように針を付けることが出来ます。また、この糸は化学繊維ですので玉糸やヘンプコードのようにチャンをすり込むという加工をしなくてもこのまま掬い縫いに使うことが出来ると思います。(強度的に問題がないと想像します)

 

但し、これ以上糸の太さを太くすると掬い縫い用の針穴に糸が通らなくなってしまいますので0.7ミリが限界かと思います。0.7ミリで実際に掬い縫いをすると、もしかすると糸が細すぎて掬い縫い穴に食い込んで最悪穴が千切れてしまうようなことが起きるかもしれません。
玉糸の場合でもつま先あたりの、掬い縫い穴が近接している部分はわざと掬い縫い糸に別の糸を絡ませながら縫うことで食い込みすぎるのを防ぐことをしますので、同じようなことをすれば回避策には成り得る気はします。

 

ということで使い勝手はどっちもどっちですが、あえて代替材料としてどちらを勧めるかと言えばマクラメコードかなと思います。何と言っても、次で紹介するチャンの加工をやらなくて良いのが、靴作り初心者にとっては最大の利点です。

(と思いましたが、後日マクラメコードで掬い縫いを試した所、まだ半分も縫い終わらない内に2回も糸が切れてしまいました。思った以上に弱かったです。。。。)

 

結論、玉糸を買いましょう!

 

チャン

靴作りをしてみたいなと考える方に取って最大の障壁はこのチャンかもしれません。材料はマモルさんでも手に入りますが、加工済みのものは販売されていませんので、何せ自分でチャンに油を加えて煮て糸にすり込むためのチャンの状態に仕上げる必要があります。
チャンを煮ると気を付けていても飛び散りますし、松ヤニですから飛び散ると除去するのが、もう嫌になるくらいにやっかいです。大変です。気軽にやることはお勧めしません。

 

一体これの代替はあるのかと探しましたが、こんなものを見つけました。

 

 

バイオリンの弦にすり込むための松ヤニだそうです。楽器屋さんで手に入りますし、安い。300円位で買えると思います。

 

で、早速ヘンプコードにすり込んで試してみたのですが、、、、結論から言うと使えませんでした。何となくチャンがすり込まれてるっぽい雰囲気は出ますが、何せ純粋な松ヤニでして、油を加えて煮ていませんから、松ヤニが固くて糸に入っていきません。表面にすこーし松ヤニが付くといった感じです。

 

糸の結論は玉糸を使おう!なのでチャンは絶対に必要になります。
やはり、自分でチャンを煮て加工する必要がありますね。

 

 

如何でしたでしょうか。色々考察した割には、結論にがっかりされたかもしれませんが、やはり専用のものというのは先人の知恵がたっぷりと詰まったものだということですね。

 

ということで、靴学校921さんの動画を見て皆さんも掬い縫いにチャレンジしてみて下さい!

では、掬い針の加工からどうぞ。

 

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