ヒール取り付けと仕上げ
2019年6月某日。
野口氏はピノコを膝の上に寝かせ、これから行う作業をイメージしていた。
IWA氏の再生手術を経て届いたピノコは、野口氏の想像を超えて美しい佇まいを見せていた。
「よし、あれで行こう。」
野口氏の頭の中でピノコを仕上げるイメージが固まったようだ。
まずはコバから決めて行こう。
ヤスリでコバの表面を綺麗に整えていく。
粗目から段々と細かい目のヤスリに変えて根気よく表面を整える。
表面が整ったら、コバごてをかけてエッジを整えるようにコバ全体の形を作っていく。
コバはその靴の印象を左右する重要なポイントだ。野口氏は丁寧にコバごてをあてていく。
出し縫いステッチ側のエッジが綺麗に出たようだ。引き続き作業を進める。
コバ全体の形が決まったら、インクを塗ってコバを染色する。
まるで唇に紅を引いたようにピノコの美しさに艶が加わった。
次は本底の仕上げだ。まずは表面を綺麗に削って整えていく。
野口氏はピノコの仕上げに、あるイメージを持っていた。
そう、半カラス仕上げ(※1)である。
※1:底のふまず部分を黒く着色して仕上げるのを半カラス仕上げといいます。全面着色するのはカラスです。
優美な曲線を描いて黒く化粧を施された本底はピノコの美しさを更に際立てるに違いない。
前足部分の底も仕上げていく。
この状態から磨き仕上げを行っていくと、
見事に艶やかな本底に仕上がった。
さあ、ヒールを取り付けて行こう。
IWA氏がヒール取り付け部分をほぼ平らにしてくれていたので積上げも一気に複数枚取り付けられる。IWA氏の作業が細かい所まで行き届いていることに野口氏も感服している。
「うん、問題なさそうだ。」野口氏は順調に作業を進めていく。積上げを取り付け、表面を整えていく。
トップリフトを取り付ける前に再度確認。
問題なさそうなので、ここからは一気にいく。貼り付けて飾り釘を打っていく。
積上げにもコテをかけて表面にツヤを出す。
野口氏は半カラス以外にちょっとした遊びも施したいと思っていた。
ピノコの頭文字の「P」が半カラスの黒によく映えている。
「ひやあつ氏は喜んでくれるかな、、、ちょっとやり過ぎたかな、、、」
野口氏は少しだけ躊躇したが、このピノコの美しさを見たひやあつ氏もきっと喜んでくれるはずだと思い、釘を打ち込んでいった。
積上げを着色して最後の仕上げに入る。
コバからヒール、本底まで更に磨きあげて、ついにピノコの完成だ。
実は「P」以外に、もうひとつ野口氏は施したものがあった。
ヒールの付け根部分のコバのところに桜の刻印を施したのだ。ピノコの美しさからイメージした桜の花びらの刻印が隠し味だ。
ピノコ。完成。
仕上げ磨き
2019年6月某日。
生憎の雨模様だが、阿佐ヶ谷にある美味しい牡蠣が食べられる居酒屋で男達が賑やかに語り合いながら飲んでいた。ここはバロン阿部氏がお気に入りのお店。そこにIWA氏、野口氏、Tomiの4人が集まっていたのだ。
元々は単に牡蠣を楽しみながら靴を語ろうという趣旨だったが、ピノコの完成に合わせて、野口氏からピノコを受け取り、バロン阿部氏が仕上げ磨きを施すということになっていた。
居酒屋の店内でひとしきり皆でピノコを愛でた後、下地作りを始めるバロン阿部氏。開店と同時に陣取った我々以外にはまだ他の客はほとんどいない。4人だが6人分の席を占有して磨き道具を拡げる。
ご覧の通りの見事な牡蠣だ。食べて飲んで語って磨いてとえらく忙しい。
磨いているそばからやっぱり気になる皆が次々に手に取るので磨きも中々はかどらない。
そうこうしている内に店内がやけに混んできた。
あ、店長が近づいて来る。そろそろ怒られるのかな。。。
「すみません、ちょっと混み合って来たので、2名分席を譲って貰えませんかねぇ。」
店長として至極真っ当な要求である。
しかし、バロン阿部氏の磨きはまだ下地作りの途中という中途半端な状態だ。
外は雨なので屋外で磨くという訳にもいかない。
致し方なく磨きを途中で切り上げるバロン阿部氏。
「まあ、ひやあつ君なら大丈夫だよ。」
何が大丈夫なのかよく分からないが、こんな中途半端な状態で引き渡されてしまって良いのか?ひやあつ氏との感動の再会は一体どうなるのだろうか?
次回、ピノコがついにひやあつ氏の元へ!
感動の最終夜へつづく
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・最終夜